「きみは見ているだけで、観察していないんだ。
見ることと観察することとは、まるっきり違う。
たとえば、玄関からこの部屋へ上がる階段を、きみは何度も見ているね」
「ずいぶん見ている」
「何度くらい?」
「そうだな、何百回と見ているな」
「じゃあ聞くが、何段ある?」
「何段かだって! そんなのは知らないな」
「そうだろう!
観察していないからだ。
見るだけは見ているのにね。
ぼくの言いたいのはそこなんだよ。
ぼくは十七段だということを知っている。
見るだけでなく観察もしているからだ。—後略—」
『ボヘミアの醜聞』アーサー・コナン・ドイル著 / 日暮雅通訳(光文社文庫より)
レイアウトを適宜変更してあります。
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